稚児の苦悩 2

先日もこんなことがあった。

いつもは生みの親と二人きりで外にお出かけをするのだが、今回はなぜか、顔中毛だらけの大きな大人がついてきた。やけに私の生みの親になれなれしい。そして私にもなれなれしい。

挙句の果てには、俺が抱っこしようか? などとほざいている。
なんて傲慢なヤツなんだ。
せめて、赤ちゃん育児レベル35くらいなければ人前で私を抱っこする資格はない。

その前にオムツ替えとミルクの飲ませ方くらいマスターしておくのは当たり前のことだ。

これだから「大人」は困る。

と、こんな感じで過去のことを思い出しながら現実逃避をしているが、実はいま私はとてもピンチである。

なぜか家に、例の顔中毛だらけの謎の大人がいるのだ。
そしてさらに悪い事に、なぜか生みの親がどこにもいないのだ。

これはどういうことなのか。
私に「死ね」といっているのか。

しまった、お腹が空いてしまった。
現実への絶望感と空腹とで、今にも泣き声をあげそうだ。

……。

だめだ、我慢できない……。

「ギャーー!!!」

例の謎の大人があたふたしながら私に近寄ってくる。

「どうしたんだい? 眠いのかい?」

どう見たって眠いときの泣き方じゃないだろ!
この大人の育児レベルは 3 であることが判明してしまった。
そして何を思ったのか、この大人は私を持ち上げようとしている。

違う、お前がすべきなのは急いで台所に行って私のミルクを作ることだ!

さらに大きな声で意思表示をするが、まったく伝わらない。
まったくなんて日だ。

さらに、私の嫌な予感は的中した。

「たかいたかーい」

毛だらけの大人が例のごとく私の体を上下に動かし始めた。
本当にやめて欲しい。

前に家に遊びに来た誰かにこれをされたときがあったが、そのときは必死の愛想笑いでごまかすのが大変だった。

普通に考えてほしい、自分の身長の三倍の距離を高速で反復移動させられるのだ。「大人」のスケールで考えれば、だいたい二階建ての屋上から地面に飛び降りるようなものだ。怖くないはずがないだろう。

「たかいたかーい」

もうダメだ、今にも我を失いそうである。この続きはまた今度にしよう……。

もしこの状況を生き残れたら、であるが……。