ひとり 3

わたしはイライラしていた。

わたしの神聖な住処を侵食してくるバカ女のせいだ。毎晩毎晩そのバカ女はバカみたいに音程を外しながらアイドルの歌を熱唱している。女の住む家のすぐそばの公園に居ついているわたしにはもう我慢の限界だった。

あの女にもいたずらをしてやろうか。

昨日、バカ女の住む家の隣の豪邸に住んでいるバカ男に仕掛けたいたずらを思い出し、思わず噴き出してしまった。

あれは傑作だった。きっとあの男は焦っているだろう。朝起きると突然自分の髪の毛がなくなっているんだ、相当なショックに違いない。

まあ、もしかしたら少しずつ髪の毛は抜けていくのかもしれないが、いずれにしてもいい気味だ。シャンプーに混ぜ込んだ脱毛剤は強力なものらしいが、実際にそれがどの程度の効果を発揮するのかは分からなかった。

でも、悪いのは嫌味なスポーツカーを乗り回しているバカ男の方だ。

そうだ、あの女にも同じようにいたずらをしてやればいいんだ!

確か、あのバカ女は隣の小さな家に住んでいる青年のことをいつも眺めていたな。もしかしたらあの女は彼のことが好きなのかもしれない。これは利用できるぞ、まずは青年の名前であの女に手紙を書いて……。

夜の公園に、ホームレスの下品な笑い声が響いた。

今夜はわたしを邪魔するものは一人もいない。

なんて最高な夜なんだ、ホームレスも中々悪くないな、などと思っていると、まぶしい光で目の前が見えなくなった。この光はなんだろう。そういえば隣の公園のホームレスのやつが今日は星がなんとかと言っていたな。ふと、自分がお金持ちになったような気がした。来世はお金持ちがいいかもな。

下品なホームレスは光に吸い込まれていった。

朝起きた瞬間、宝くじを買ってみようと思った。

なぜかお金が急に欲しくなった。ずっと普通のサラリーマン生活を送っていたが、昨日まで極貧生活だったような錯覚を覚えた。

今日宝くじを買えば絶対に当たる気がした。普段のわたしは博打などしない人間だったため、そんな決断をする自分が不思議だった。一週間後の彗星の影響だろうか。

もし宝くじが当たったら、まずは空き家になっている隣の豪邸を買い取って、そしてずっと憧れていたスーパースポーツカー、ロータス・エリーゼ・フェーズII を買って……。