あの日から私は部屋の明かりを消せなくなった。
引っ越しまでしたのだけれど、それもほとんど意味はなかった。
「もうお前のことは好きじゃないんだ」
ある夜、彼が私にそう告げた。
どうして? 私のせいなの?
しんと静まり返ったこの部屋に返事をするものは誰もいない。
部屋には山積みになったダンボールがあるだけだ。
本当は今頃、彼といっしょに映画を見たりくだらないおしゃべりをしたりしているはずだった。
夜が怖かった。怖くて怖くてたまらなかった。彼の言葉が BGM のように脳内でリピートされる。
もうお前のことは好きじゃないんだ。
「やめて!」
布団の中にうずくまる。
もう何日も家から外に出ていなかった。
携帯の電源もずっとオフにしていた。
ずっと寝ていないため頭がふらふらしている。
ふと、彼が近くにいるような気がした。
あたりを見回してみるが、もちろん彼はどこにもいない。不気味なダンボールの山があるだけだ。
もしかしたら……。
玄関へと駆け出し、扉をあけて外を見てみる。もちろんそこには誰もいない。真っ暗の小道に薄暗い街灯がポツンとあるだけだった。
そうか、いまは深夜なんだ。背筋が寒くなった。
急いで扉を閉めて布団に潜り込み、ぎゅっと目をつぶる。
あの日もこんな夜だったっけ。
彼は中華料理が好きだった。
私はいろんな料理本を買ったりお料理教室へと通ったりして、彼の大好きな麻婆豆腐が作れるように頑張った。
彼に喜んでもらおうと必死だった。
中華鍋も特注のガス台も業務用冷蔵庫も、全部彼のために揃えた。
私は彼の大好物の麻婆豆腐を作って待っていたのに。なのにどうして……?
もうお前のことは好きじゃないんだ。
もう私は限界だった。
布団から飛び起きると、ダンボールの中からカッターナイフを取り出した。
そして一番大きなダンボールの前へと向かう。
私の背ほどもあるこの大きなダンボールにカッターナイフを突きつける。
ビリビリビリ。
この狭い部屋には似合わない巨大な冷蔵庫が姿を現した。その扉はガムテープでぐるぐる巻きにされている。
息を整え、手に持ったカッターナイフでガムテープを無造作に切り裂いていく。
一通りガムテープを取り除くと、扉の隙間から血が滲み出してきた。
覚悟を決め、私はゆっくりと扉をあける。
……。
扉を閉め、私はホッと胸をなでおろした。
ああよかった、あなた、ちゃんと死んでるじゃない。
私はベッドに横になり、安心して目をつぶった。
今夜はぐっすり眠れそうだ。