大人は子どもに「性教育」をするべきでしょうか?
最近では『子どもに「性教育」をするべき』と考える人が増えているようで、タレントの SHELLY さんも 性教育に関する動画 (「性教育チャンネル始めました!”なんでお風呂場なのか”─の回」) を YouTube にあげていたりします。
世間一般的には、このような動きは好ましいもののように考えられているようです。
こういった教育を重要視する文化 (西洋) が優れており、この領域をタブー視してきた日本は遅れている、といった価値観ですね。
誤解を恐れずにいえば、わたしは、大人は子どもに「性教育」をすべき ではない と考えています。
このページでは、わたしが上記の考えに至った経緯と、代わりに我々がすべきことをご提示します。
そもそも「性教育」とは何か?
性教育の全体像は非常に幅広いですが、大きく分けると以下のように分類できます。
- 性について (男女の体のつくり、性の多様性、LGBTQ)
- 性行為について (愛、方法論、性同意)
- 性行為に伴うリスクや危険性について (性病や若者の妊娠、避妊)
- 性にまつわる法律の知識について (性暴力、DV)
なぜ我々は「性教育」をしてはならないか
理由は簡単です。
なぜならば、我々は「性教育」ができるほど、我々自身が性についてまったく何も理解していないからです。
もっと言ってしまえば、正しい「性教育」ができる人間などこの世には存在しません。
その現実において、重要なことは以下ではないでしょうか。
Fully Hatter の主張
- 「大人も性について何も分かっていない」という大前提をまずは子どもと共有すること
- 自分たちの社会のルールを (あくまでルールとして) 伝えること
- そして何よりも、知りたいことを調べる方法を教えること
性教育に限らず、 我々が誰かに何かを教える方法はこれ以外にありません。
あなたが「性」を理解していない理由
たとえば
- 性行為は素晴らしいものである
- 子どもを産むことは素晴らしいことである
- 避妊の知識をきちんと身につけよう
- 女性を襲ってはいけない
これらを当たり前のことだと思いますか?
あなたは、これらの中に隠れている危険性にちゃんと気づいていますか?
上記をすべてひっくり返してみましょう。
- 性行為ができない人にも価値がある
- 子どもを産めない人にも価値がある (むしろ、子どもはあまり産まない方がよい)
- 避妊はしてはならない
- 女性は襲ってもよい
これらの言葉に嫌悪感を抱く人もいるかもしれませんが、あなたがどう思うかはともかく、このひっくり返した言葉の方が「正しい」とされる文化や民族が多数存在する (していた) ことは認識するべきでしょう。
もしあなたが、これらのひっくり返した言葉が「間違っている」と思うのならば、その「間違っている」文化や民族から見れば、あなたのその考え方こそが「間違っている」価値観です。
つまり、あなたが「正しい」と思っている「性」は、一つ残らず間違っている可能性があるのです。
何となく、わたしが言おうとしていることが見えてきましたか?
わたしがお伝えしたいことは基本的には上記がすべてですが、読者の皆さまの理解のために、以下に具体的な Q&A をまとめてみます。
Q&A
Question 1: 「性教育」には価値があると思うけど?
それでは、あなたは
- たとえばゲイやレズの方に対して、彼らが抱きがちな疎外感との付き合い方や、自分の性的指向をどこまで打ち明けるべきかなど、性的少数の方のあるあるの悩みに答えられますか?
- たとえば、体は男性で性的指向が女性であっても、服装やふるまいや言葉遣いは女性っぽくありたい、というような人がいることを認識していますか? そして、そのような「普通でない」人たちの方が実は圧倒的多数派であることをきちんと認識していますか?
- まさか、自分自身の経験をもとに「教育」をしようとはしていませんか?
- 「性」とは、ひとりひとりがあまりに多様であり、すべての人間が性的少数であることをきちんと認識していますか?
「性」について知るべきことというのは、実は、ひとりひとりでまったく異なります。
その現実において、その子が知るべきことというのは、本来は誰かが与えてくれるようなものではありません。
教えるべきは「答え」よりむしろ、その「答え」に辿り着く方法ではないでしょうか。(詳細は『Question 6: 結局、親は何を教えればいいの?』をご参照)
Question 2: 「子どもを産むことは素晴らしい」と教えてはいけないのか?
ここではあえて、「教えてはいけない」と回答したいと思います。
たとえば、あなたがその子を勝手に異性愛者だと思い込んでいる (場合によってはその子自身もそう思い込んでいる) だけで本当は同性愛者だったり、たとえばその子が ED や不妊症で子どもが作れない体だったりした場合でも、あなたは本当に「子どもを産むことは素晴らしい」と教えますか?
たとえば、子どもが作れない人に価値はないと思いますか?
たとえば、西暦1,800年まで (数十万年かけて) 緩やかに増加してきた世界人口が、このたった 200年の間で7.5倍 (西暦1800年の世界人口は約10億人で、西暦2020年の世界人口は約75億人) になっていますが、本当にもっと人間を増やすべきだと思いますか?
Question 3: 「避妊の知識」も教えてはいけないのか?
これをお読みの方も十分ご存知のように、日本社会においては、たとえば中学生や高校生くらいの年齢で子どもを作ることにはかなりのリスクがあります。
統計的にも明らかな経済的ダメージがあり、中高生に避妊を強要することには一定の成果が見込まれるでしょう。
ただし、これは 教育ではありません。
「教育」とは、たとえば避妊についての俯瞰的な情報を提供することです。
その「教育」の中にはもちろん、避妊がタブー視される文化の価値観や、避妊そのものの是非 (生命に関することを人間ごときがコントロールしてよいのか? 等) についての議論も当然盛り込まれるべきであり、「教育」とは、たとえば「避妊をすべきかどうか」の結論をより曖昧にするものだからです。
よって、わたしは「教育」ではなく「洗脳」をすべきと考えます。
わたしの主張をもう一度繰り返します。
Fully Hatter の主張
- 「大人も性について何も分かっていない」という大前提をまずは子どもと共有すること
- 自分たちの社会のルールを (あくまでルールとして) 伝えること
- そして何よりも、知りたいことを調べる方法を教えること
「洗脳」というちょっと強い言葉を使いましたが、これは上記の 2つ目の『自分たちの社会のルールを (あくまでルールとして) 伝えること』を意味します。
避妊の是非についての議論があることを大前提としながら、日本の社会では避妊はした方がいいよ、というアドバイスが大切だと考えます。
わたしの結論 (中高生にはとりあえず避妊させる) は「性教育をすべき」派の人たちとほとんど同じですが、彼らとわたしの唯一の違いは、それを「教育」と捉えるか「洗脳」と捉えるかの違いでしょう。
まとめると、避妊を勧めることは「性教育」ではなく「性洗脳」であり、それは悪いことではなくむしろ、日本社会における一つの最適解である、というのがわたしの主張です。
Question 4: たとえば女の子に「プライベートゾーン (水着で隠れる部分等) は他人に触らせてはいけない」と教えることは大切では?
その通りだと思います。
でも、それも『Question 3: 「避妊の知識」も教えてはいけないのか?』と同じように「教育」ではないと思っています。
Question 5: 女性を襲うことは許されないのでは?
言うまでもなく、現代社会においては個人の権利を侵害するようなあらゆる行為は正当化されません。
しかし、ここにも大きな危険性があります。
「女性を襲うこと」は社会的に明らかな NG ですが、だからといって「女性を襲いたい」という欲望を否定することは、また新たな、そして非常に大きな問題を引き起こします。
またまた誤解を恐れずに言えば、わたしは あらゆる欲望は無視してはならない と思っています。
社会において「望ましくない」とされるどんな欲望も、それを抑圧することは避けなければなりません。
もちろんこれは、人を殺したり女性を襲うことを推奨している訳ではありません。
そうではなく、その欲望を直視し、それを合法的に解消する方法を考えるべきです。
たとえば、どうしても人を殺したい人がいたとして、その人にとって重要なのは「人を殺したい」という欲求を無視することではなく、その欲求に向き合い、たとえばゲームなどでその欲求を満たしたり、体を動かすことでその欲求を間接的に解消したり、もしくは軍隊に志望したりなど、その欲求と (合法的かつ倫理的に) 付き合う方法を考えることこそが重要なはずです。
同様に、女性をどうしても襲いたい人がいたとして、その人にとって重要なのは「女性を襲うことはいけないことだ」としてその自分の欲求を否定することではなく、その欲求を自分のものとしてまずは受け入れ、それを直視し、たとえばパートナーにその欲求を打ち明けてそのようなシチュエーションを (合意のもとに) 作ってみる、というような具体的な対策案を考えることこそが重要ではないでしょうか。
一般的な「性教育」によって「女性を襲うことは悪いことだ」というメッセージを安易に伝えることは、(その伝え方によっては) より深刻な犯罪を生み出してしまう結果にもなり得るのです。
Question 6: 結局、親は何を教えればいいの?
もう一度、わたしの主張をまとめます。
Fully Hatter の主張
- 「大人も性について何も分かっていない」という大前提をまずは子どもと共有すること
- 自分たちの社会のルールを (あくまでルールとして) 伝えること
- そして何よりも、知りたいことを調べる方法を教えること
繰り返しますが、まず最初に我々は「何も分かっていない」ということを認識すべきです。
「性教育」によってその子の未来を拓くどころか、逆にその子にとって有害な影響を与える可能性があることを十分に知っておきましょう。
そして、その大前提のもとに『知りたいことを調べる方法』を教えてあげましょう。
難しいことはありません。
あなたがどのようにその「性」についての知識を手に入れたのか、そのあなた自身の情報の仕入れ方をそのまま子どもに教えてあげればよいのです。
たとえばそれは、近くの図書館や古本屋さんで本を探す方法だったり、Google検索の方法だったり、もしかしたら身近な大人と話すことだったりするかもしれません。
もちろん、その調べる前準備として「性」についての「目次」を子どもに教えてあげることは大切ですが、重要なのは知識それ自体よりもむしろ、その知識にたどり着くための方法ではないでしょうか。
その子が性について何を学べばよいかは、親や教師のような大人たちよりも、その子自身の方がはるかによく分かっているのですから。
どなたでもご自由に書き込んでください。
Fully Hatter が愛をもってご返事いたします。